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  • 執筆者の写真須賀雅子

⑮「贈り物」

 「言葉は贈り物」私はそう思っています。

 独り言でないのなら、必ず誰かに伝えるために言葉を発しています。

 自分では伝えているつもりでも、相手に理解してもらえなかったり聞き返されたりしたことはありませんか?

 そんな時は、寂しい心持ちになって相手との距離が少し遠く感じられてしまいがちです。私も後になって、伝え方を後悔することがありました。

 しかしその反面、十分に伝えられた時は自分の心が温かくなります。

 この言葉の伝え方について、より深く向き合ったのがTBSアナウンススクールの講師としての18年間でした。

 スクールに通ってくるのはアナウンサーを目指している大学生です。目を輝かせ授業を受け始めても、次第に戸惑いや悩みにぶつかってゆく生徒さんが出てきます。器用に対応出来る生徒さんもいますが、悩みすぎて袋小路で迷子になってしまう生徒さんもいるのです。

 そこで私は講師としてというより、母親としての心で生徒さんと向き合おうと思っていました。言葉を伝えるのはアナウンサーだけではありません。人として生涯続けてゆくことです。ですから単なるテクニックではなく「伝えたい心」を忘れて欲しくないと言い続けてきました。

 言葉は贈り物です。

強い口調では投げつけているようですし、弱々しい声では届きません。

 本当に相手に受け取ってもらいたいと思えば、渡し方は自然に変わってくるはずです。

18年間、母親としての心構えで500人を超える生徒さんに向き合ってきたせいでしょうか。

 言葉の伝え方に戸惑っている若者に出会うと、お節介おばさんが発動してしまうのです。

 先日も行きつけの美容院で、こんなことがありました。

入社3年目になる男性美容師くんが「今年は自分を変えたいんです」と意気込みを話してくれました。その彼は、真面目さと優しさがにじみ出ているのですが、話し言葉にメリハリが無く何を言っているのか分からない時がありました。

 お店の先輩たちも色々と注意してきたようですが、お節介おばさんとしては、もう一押し彼の背中を押してあげたくなったのです。

 そこで「言葉は贈り物」の話をしました。

 毎日発している言葉こそ、流さずに大切にお客様に伝えてくださいと。

彼は何かを強く決心したような瞳で私を見つめ頷いてくれました。

 その直後のシャンプーでは実に嬉しい言葉が交わされたのです。

「お湯の温度は宜しいでしょうか?」

これまでは何が宜しいのか滑舌が悪く聞き取れなかったのに、はっきりと受け止められました。

 そして私からも言葉の贈り物を

「大丈夫ですよ。ありがとう」


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