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執筆者の写真須賀雅子

㊿「心寄り添う」

 私には今、心を寄り添わせている人がいます。

……といっても恋をしているわけではありません。

その人は、鴨長明さん、小泉八雲さん、宮沢賢治さん、新美南吉さん、そして向田邦子さんです。

もうお分かりかと思いますが、それぞれ文字によって素晴らしい表現をした方々です。


 現在「Mako’s 話し方サロン」では、それぞれのクラスで、この方たちの作品の朗読に取り組んでいるのです。

私が朗読をする際に必ずやっていることは、作品を紡ぎ出した人に心を寄り添わせることです。つまり、その人の生き様を知るということです。

 作品を綺麗な声で滑らかに読むだけでは朗読の持つ魅力は伝わらないと思っています。

その人がどのように生まれ、どのように人生を歩んでいったかを知ると、作品の受け止め方が変わってきます。深いところを感じられ、作家の心も朗読する者に寄り添ってくれるような気がしてくるのです。

 鴨長明さんの「方丈記」は鎌倉時代、小泉八雲さんの「怪談」は明治時代、宮沢賢治さんの「やまなし」は大正時代、新美南吉さんの「赤蜻蛉」「ごん狐」「手袋を買いに」は昭和初期、そして向田邦子さんの直木賞受賞作品「思い出トランプ」は昭和の終わり頃。

書かれた時代に大きな違いがありますが、同じ人間としての喜びや悲しみがあったのです。

それを受け止めて朗読をしてゆきたいという思いを生徒さんたちに伝えています。

 

 今回の作品選びは、生徒さん自らのものもありますが、向田邦子さんの作品は、サロンの一番お若い生徒さんに私がお勧めしました。

30代に入ったばかりの彼女は、向田邦子作品に触れたことがなかったそうです。だからこそ私自身が大好きな作家を知ってもらいたいと思いました。

 向田邦子さんは私にとって、文章の師匠だと勝手に敬愛している方なのです。

約40年前、アナウンサー試験に挑むために作文の書き方を学んでいました。その先生から、好きな作家との出会いは大切だと聞かされ、書店でその出会いを探している時に目に留まったのが向田邦子さんの「思い出トランプ」でした。

読み始めると向田ワールドに引き込まれ、次々に作品を買い集めていました。

あの頃の私は、向田邦子さんの本を開くと、向田邦子さんに優しく見守られているような安堵感を感じていたのです。

物事を見る目、それを表現する言葉へのこだわりは、私に大きな刺激となりました。

アナウンサー試験で作文の評価が高かったと人事担当者から聞いた時、「向田邦子先生」に心の中で手を合わせました。

  今年は向田邦子さんが台湾での飛行機事故で亡くなってから40年になります。

「没後40年特別企画 向田邦子に”恋”して」というテレビ番組がBS-TBSで放送されました。

向田さんが生きた時代を知らないはずの若い女性たちにも向田邦子さんは愛されているそうです。

そこでその番組を、向田作品の朗読に挑んでいるお若い生徒さんにお勧めしました。

すると、「同じ時代に生きていたら絶対に憧れた女性です」という感想を聞かせてくれました。

これからその生徒さんが、向田邦子さんに少しずつ心を寄り添わせてゆくのを楽しみにしています。



メッセージ、お待ちしております。

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